nap(ナップ)のうたた寝雑記

ゲーム(特にFPS)、ゲーム、漫画、アニメ、小説etc。色んな事を書くつもり

自作小説『スキルマジック』9

「最後は私」

「お前もくれるのか?」

「当たり前じゃない」



 和也のプレゼントは後で持ってくると言っていた。



「お! 綺麗に包装されておるな」

「ホントだな」

「そ……そう」

 髪を横に払う沙織。

「あ……それって沙織ちゃんが……グムグム!」



 何か言おうとした和也の口を沙織が塞ぐ。

「何してんだよ」

「なにもしてないけど……」

「『なにもしてないけど』じゃないよ! 窒息死するどころだったんだけど!?」

「嘘つけ、元気そうではないか」

「一葉ちゃん……」

「……無事ならそれでいいんじゃね?」

「裕翔お前まで!?」



 (仕方ないだろ!? 沙織が触れるなオーラを凄い出してるんだから!)

「開けても良いのか?」

 渡されたプレゼント見ながら沙織に問う。

「良いよ」

 綺麗な包装を剥がすと、VRのソフトが入っていた。

「スキルマジック? これは?」



「それはね、VRの大人気ソフトでVRシステム『ダイブルーム』保持者の大半が持ってる2~3年前のゲームなのにそのゲームはまだ一人にしかクリアされてないの! 私もヒトちゃんもカズ君も持っていて一緒にしてるんだよ! お兄ちゃんゲームしないのに、何故かダイブルーム持ってるでしょ? ならやるしかないよ!? お兄ちゃんがゲームしないのは知ってるけどでも……絶対に楽しいと思ったから!」



「落ち着け、沙織。大体わかったけど、次からはもっとゆくっり喋ってくれ」

 沙織はゲームの事になるとテンションが急に上がるんだよな。



 一瞬、俺は今朝の夢を思い出していた。しかし、それだけでなく何かが、何かどす黒く嫌なものが夢を黒く塗りつぶしていった。

「大丈夫? お兄ちゃん」



 沙織の声で我にかえる。

「顔色が優れないぞ、裕翔」

「いや。大丈夫だよ、少し貧血なんだ」



「そうか。驚かせんなよ」

「悪い悪い」



「そうじゃ、今からゲームしないか? せっかく裕翔も持っているわけだからな」



「お、賛成」

「じゃあ、此処で一旦解散。そしてゲーム内でまた合流ってことで」

「「「了解」」」

自作小説『スキルマジック』8

「では、私が最初じゃな」

「少ない小遣いで悪いな」

「子供扱いするなと何時も言っておろう!?」

 こほんっと咳払いし、後ろに持っていたプレゼントを差し出してくる。

「これは、写真立てか?」

「そうじゃ。何か飾りたい写真があれば、飾ってくれ」

「と、言っても写真なんかないしな」

(お? この写真立て二枚飾れるのか……二枚ねえ)



「む? どうかしたのか?」

「ああ、気づいたことがあるんだ。この写真立て二枚入るんだよ。だから、今撮ろう。一枚目が俺と一葉の二人で。二枚目が皆で。どうだ?」

「良い案じゃ」



「よし! 決まり。なら和也、撮ってくれ」

「了解!」

 一葉は俺の手を握ってピースする。

 此方を見る一葉が「お前もしろ」と言っている。

 多少恥ずかしかったが、一生忘れない思い出になる写真だ。仕方がない。俺もピースをして苦笑いする。



「良し、OK。撮れたぞ」



 一瞬で画像から写真となってスマホから出てくる。

「笑いかたがおかしいではないか!」

「頑張ったんだぞ裕翔は」

「悪いな。これが限界なんだ」



 一葉と一緒に一枚目を飾る。



「ありがとうな。一葉」

「何がじゃ?」

「一緒に写ってくれて」



「うむ」



「次は二枚目。皆で撮ろう」



 皆でピースしてシャッターの切れる音を待つ。

 この写真。先程撮った一葉との写真。あの写真立てに飾る事によって絶対に残る記憶となるのだ。と、らしくもなく考えてしまう。この四人の一人だって欠けてはいけないのだ。この四人が居たからこそ、三人と巡り会えたからこそ、この写真はあるのだと。

(俺は幸せ者だ)



 静かにシャッターが切れた。

自作小説『スキルマジック』6

「なあ、裕翔。私のことを忘れてはおらんか?」

「ん? 何処かで声が聞こえる」

「ここじゃ此処!!」



 俺の服を引張って存在を主張してくる小学生のような容姿の少女は、竝川なみかわ一葉ひとは。この謎の口調が印象に残る。

 家が隣の208号室で、コチラも小さい頃からの付き合いだ。



「おお、一葉。小さくて分からなかった」

「はははは、冗談が上手いではないか」

「え~と、一葉さん? 目が全然笑ってないし、そもそも冗談なんかじゃ……」



 一葉の小さな拳が腹にめり込む。

「うげ」

「まだ言うか!」



 黒色の髪をなびかせて俺に飛びかかってくる。

 それを交わしながら部屋の中を逃げ回る。

(小さいだけあって、すばしっこいし、殴られると地味に痛いんだよな)



 

 そんな風に一葉から逃げていると、パンッと手を打つ音が聞こえる。



「ケーキ食べよ?」

 逃げ回っていて気づかなかったが、テーブルにはケーキが綺麗に四等分されてあった。



「おお! 何て美しいケーキだろうか……一先ず休戦じゃ」

 俺はタイミングよくケーキの話題を出してくれた沙織に親指を立てて「グッジョブ!」の形を作る。

 沙織もまた微笑んで、「グッジョブ!」と親指を立てるが、その親指は180度回転し「ブーイング」の形になった。



(あ……あれ~?)

 背筋が寒くなった。

自作小説『スキルマジック』5

「ただいま」

 恐る恐る賃貸マンションの209号室に入る。

 人がいるとは思えないほどの静けさ。

 俺は生唾を飲み込みリビングへと急ぐ。

 (唐揚げ様をさっさと置いて部屋に戻ろう)

 リビングへのドアを開ける。



 その瞬間、微かな火薬の匂いと破裂音が鼻腔と鼓膜を刺激する。



「うっお!」

 驚きのあまり尻餅をつく。



「痛った」

 尻をさすりながら視線を戻すとそこには沙織がドアの前

で仁王立ちしていた。



「さ、沙織?」

 そっぽを向いた沙織が唇を尖らせて



「その……お兄ちゃん、誕生日おめでと」

「あ……」



 そうだ。すっかり忘れていた。今日は、7/11は俺の誕生日だ。



 差し出された手を掴んで起き上がり、沙織と一緒にリビングに入る。



「すげぇ」 

 そう感嘆の声が漏れるのも仕方がないくらい、綺麗に飾り付けがなされていた。

「ありがとうな、沙織マジで嬉しいよ」

「そう」

 沙織は金色の髪を乱暴に払って台所に消えた。

「おい、俺らには何もないのか?」

 ふいに横から声がする。

「ありがとな。和也」

「おう」

 グータッチ。

「痛っ」

「俺も同じだ」

 二人で笑い合う。

 コイツは、山葉やまは 和哉かずや。

 俺や、沙織が小さい頃から和也とはよく遊んでいたらしい。親とも顔見知りで母の和代さんは両親がいない俺らをすごく気遣ってくれていて、たまに様子を見に来てくれたりする。

自作小説『スキルマジック』4

卒業後は大学に進学する予定。仕事を行う労働者が、人からロボットに代わりつつあるこの時代。

 だからこそ、大学を卒業した後、仕事に就職する事にこそ意味があると俺は考える。

 もう指示されたことを只するだけの時代は幕を閉じた。これからは、自分で考えて行動する思考能力と行動能力が仕事場では必要不可欠となり始める。

 そんな自分の能力が問われる仕事場は憧れを抱くに値する存在だ。

 まあ、確かに現在導入されている生活支給制度や、俺らの両親が残した莫大な財産により仕事をする必要は殆ど無いに等しいのだが。しかしいくら多いといっても無限ではない。せめて、沙織だけには不自由なく過ごしてほしい。

 空を見上げると数十機のドローンが目的地へと飛んでゆく。

 俺は特に意味もなく小さなため息をついた。

自作小説『スキルマジック』3

「イッテ」

 右の頬を優しくさする。が、痛い。

 あの後、金属バットを引っ張り出した沙織に戦慄し家を飛び出してきた。現在進行中の目的は沙織の大好物、『唐揚げ様』を購入するべく『ラーソン』に向かっている途中だ。

 ドローンに頼んでも良いのだが、こういうのは品物ではなく誠意を込めることが大事だと考えたためだが、こんな夏の日に誰も外に出ないのか、ドローンだけが空を飛び交う状況になってる。



 ここ数年で色々な事が変化した。



 技術革新レボ・テクノロジー

 2037年、日本は急激に科学技術、通信技術等が発達した。

 その影響により、AI搭載のロボット『RORO』が

急速に普及。タイプは様々。

 例えば、『ドローンタイプ』持ち主の要望の品を自動で配達、配送する事が出来る。

 『人型タイプ』コンビニ、工場等で、24時間働いたり、接客などを可能とする。



 自動ドアが開き冷房のきいた店内に入る。

『いらっしゃいませ』

 聞き慣れた、まさに機械的な声で出迎えてくれる。

「唐揚げ様、北海道チーズ味1つ」

『承りました』



 目の前に3Dの液晶が現れる。



 ラーソン

 唐揚げ様北海道チーズ味×1

 お会計218G



 宜しいですか?

 yes no 



 俺は『yes』を選択。

 これで買い物は終了。数年前までの硬貨は現在では仮想通貨となり、自動引き落とし。

 高校も変わった。単位制になったのだ。

 俺は現在17歳。普通に単位を取得し、普通に進級しているなら高校2年生だが、もう既に卒業できる単位を取得し終えている。

自作小説『スキルマジック』2

ーー数年前まで偶像の存在だったVRシステム。

 それがもうこんなにも身近なものになっていた。

 俺は視線を横に流す。

 視線の先には埃をかぶったダイブルーム。



 技術革命レボ・テクノロジーは今までの全てを否定した。

 突然、扉が空いた。 

「お兄ちゃん? ご飯出来てるよ」

「……ノックしろよ。着替えてるかも知れないだろ」



「っ!? 呼びに来てあげたんだから感謝しなさいよ! そ……それを!」

 耳まで真っ赤にして激昂する16歳の現役女子高生は俺のたった一人の妹 白井しらい 沙織さおりだ。



「(朝方から元気なやつだ)」

 布団から起き上がり、沙織を見る。



「あ! 今馬鹿にしたでしょ!」

 ーーこういうときだけ勘が良いいんだよな、コイツ。



「おはよう、沙織」

 背伸びをしながら部屋出口へと歩を進める。



 急にバランスを崩す。原因は直ぐに分かった。 



 重心破壊者バランスブレイカー。

 ……もとい、バナナの皮。



 勢いよく転んでしまう。



「イテテ……」



 頭を多少打撲したようだが大事には至らなかったようだ。



 (柔らかい床だな)

 おかげで怪我をせずにすんだのかもしれない。





「きゃっ……!? ななっ……」



「どうかしたのか?」

 顔を上げる。



 俺は事態を把握し、声にならない悲鳴を上げた。



 大事故だ!!



 俺が柔らかい床だと思っていたのは……俺が揉みしだいていたものは……。



 実の妹の胸ーー。

 まだ発展途上でまだまだ幼げで主張が控えめであるが、とても柔らかい。制服越しでも伝わってくる沙織の体温。



 天国か地獄。どっちに行くのかなぁ。



「ば……馬鹿あああああああ!」

 俺の右の頬は沙織の甲高い悲鳴と共に強烈なビンタを受けた。