自作小説『スキルマジック』6
「なあ、裕翔。私のことを忘れてはおらんか?」
「ん? 何処かで声が聞こえる」
「ここじゃ此処!!」
俺の服を引張って存在を主張してくる小学生のような容姿の少女は、竝川なみかわ一葉ひとは。この謎の口調が印象に残る。
家が隣の208号室で、コチラも小さい頃からの付き合いだ。
「おお、一葉。小さくて分からなかった」
「はははは、冗談が上手いではないか」
「え~と、一葉さん? 目が全然笑ってないし、そもそも冗談なんかじゃ……」
一葉の小さな拳が腹にめり込む。
「うげ」
「まだ言うか!」
黒色の髪をなびかせて俺に飛びかかってくる。
それを交わしながら部屋の中を逃げ回る。
(小さいだけあって、すばしっこいし、殴られると地味に痛いんだよな)
そんな風に一葉から逃げていると、パンッと手を打つ音が聞こえる。
「ケーキ食べよ?」
逃げ回っていて気づかなかったが、テーブルにはケーキが綺麗に四等分されてあった。
「おお! 何て美しいケーキだろうか……一先ず休戦じゃ」
俺はタイミングよくケーキの話題を出してくれた沙織に親指を立てて「グッジョブ!」の形を作る。
沙織もまた微笑んで、「グッジョブ!」と親指を立てるが、その親指は180度回転し「ブーイング」の形になった。
(あ……あれ~?)
背筋が寒くなった。